貼り人通信 Vol.2 特別企画

フラットボックス「ジャパンエディション」
開発者インタビュー

日本仕様はこうして生まれた

貼り人通信 Vol.1(2026冬号)の「SNSで発見」コーナーでは、フラットボックス「ジャパンエディション」を紹介しました。海外ではスタンダードツールとして広く普及しているフラットボックスですが、日本では材料や施工文化の違いから、これまで十分に普及しているとは言えない状況でした。
今回登場した「ジャパンエディション」は、そうした日本の現場事情に合わせて開発されたモデルです。しかし誌面では紙幅の都合もあり、WEB上で公開されている情報を中心とした簡易的な紹介にとどまっていました。
そこで今回、開発の背景や改良ポイントについてさらに詳しく知るため、有限会社エーエムエンジニアリング代表の雨皿氏にインタビューを実施。日本仕様として誕生したフラットボックスの開発経緯や改良点、開発の裏側について詳しく伺いました。

インタビュー

有限会社エーエムエンジニアリング 代表 雨皿氏

フラットボックスとは何か

Q1.まず「フラットボックス」とは何ですか?

フラットボックスは、海外(日本と韓国以外)ではほぼスタンダードなツールです。日本と韓国以外では「ドライウォーラー」という職種がすでに存在していて、彼らが使うツールの総称が「ドライウォールツール」と呼ばれています。その中でも最も一般的で、多くの現場で使用されているのがフラットボックスです。

日本では、パテ屋さん(ドライウォーラーに近い業務)やクロス職人さん、塗装職人さんなどがパテ作業を行うことが多いですよね。一方、海外ではパテ処理を専門に行う職種が存在していて、「パテ作業は専業の職人に任せた方が効率的」という考え方が強くあります。

そうした背景から、ドライウォーラーという職種が確立され、その作業効率を高めるツールとしてフラットボックスが広く普及していったと言われています。

Q2.エーエムエンジニアリングさんは、いつからフラットボックスを扱っているんですか?

弊社は2020年5月から、カナダの「コロンビア・テーピングツール社」(世界トップシェアのドライウォールツールメーカー)の総代理店として、日本国内で販売を行っています。

ジャパンエディションが出る前は、海外で流通しているモデルを日本に輸入し、日本の現場に合わせて調整やカスタムを行いながら販売していました。私自身も現場に出ていた経験があるので、日本の材料や施工文化は海外とかなり違うなと、日々感じていました。

なぜ日本仕様が必要だったのか

Q3.なぜ「日本仕様」が必要だったのでしょう?

大きく言うと、材料の粘度と施工文化の違いです。

海外のパテは「mud(マッド)」と呼ばれるくらい柔らかく、かなりシャバシャバしています。そのため世界標準のフラットボックスは、パテが出る口がかなり小さく設計されています。

しかし日本の場合、地震や台風など自然条件の影響もあり、建材自体が比較的硬く作られています。その影響でパテの粘度も高く、海外の材料よりもかなり硬いものが多い。

その状態で海外仕様のフラットボックスを使うと、必要以上に力を使わないとパテが出てこないという状況になってしまいます。そこは日本の現場に合わせて改良した方がいいという話になりました。

また、日本の施工は海外と比べて「薄くパテを出す文化」があります。私自身も現場で使うときは、かなり薄く絞るようにカスタムして使っていました。そうした施工文化に合わせた設計が必要だったということです。

Q4.「ジャパンエディション」は海外品をカスタムしたものですか?

ここはよく誤解されるのですが、カスタムではありません。

これまでの5年間、講習会や展示会を通じて職人さんの声を集めてきました。「こうだったら使うのに」「この機能があれば多少高くても出す」そういう現場の声を分析して、日本の現場で使いやすい形に設計したものがジャパンエディションです。

海外の製品を購入して日本で改造しているわけではなく、日本側で仕様を設計し、その仕様をもとにカナダのメーカーにOEMで製造してもらっています。

つまり、
日本人が考え、日本人向けに設計されたフラットボックス
という位置づけになります。

Q5.開発期間はどのくらいだったのでしょう?

2020年5月から2025年9月頃まで、約5年間です。

年間でいうと講習会や展示会に100回以上参加しました。ホシケンさんにも呼んでいただいて、いろいろな職人さんの声を聞かせてもらいました。

私たちは、とにかく職人さんの声を一番大切にしています。

ジャパンエディションのベースモデル

Q6.ジャパンエディションのベースは何ですか?

ベースはコロンビア社のラインナップの中でも、スタンダードより少し上の位置づけである「ファットボーイ(Fat Boy)」というモデルです。

従来のフラットボックスよりパテ容量が約40%増えているタイプで、より作業効率を高めることができるモデルになります。

ジャパンエディションの4つの改良点

Q7.改良点① ビードガイド

1つ目は「ビードガイド」です。

出隅のコーナー部分をパテ処理する際、作業を安定させるための機構になります。オンにすると爪が出る構造で、その爪をコーナーテープに引っ掛けて走らせるだけで、コーナー部分の処理が安定します。

コーナー部分は仕上がりが目につきやすく、品質が求められる場所でもあります。その部分の施工を安定させることで、仕上がり品質の向上にもつながる機能です。

Q8.改良点② インサイドホイール+クリアタイヤ

従来のフラットボックスは、パテを踏まないようにホイールが外側に出ている構造でした。ただその構造にはデメリットもあり、入隅付近が非常に打ちづらいという問題がありました。

そこで今回のジャパンエディションでは、ホイールを内部に収納する構造に変更し、入隅付近でも施工しやすい設計にしています。

また、従来の黒いタイヤだと同じ場所を重ね打ちした際にタイヤ痕が目立つことがありました。そのためタイヤ痕が目立ちにくい「クリアタイヤ」を採用しています。

Q9.改良点③ 低圧スプリング

コロンビア社のフラットボックスには背面にバネが入っていて、ジョイントを打つときの角度を調整してくれる機構があります。

ただ海外仕様のバネはかなり硬いので、日本の職人さんにとっては扱いづらい場合がありました。そこで今回、バネ圧を従来の約半分に設定しています。

これから建設業界では女性の現場進出も進んでいくと考えられますので、体格や握力に左右されず扱いやすいツールを意識した設計にしました。

Q10.改良点④ 薄膜設計

従来販売していたものよりも、もう少し薄くパテを出せるように設計しています。日本の施工は海外と比べて薄くパテを出す文化があるため、その施工スタイルに合わせて調整しました。

レベルボードのジョイント処理など、日本の現場に合わせた施工がしやすいように最適化した状態で生産しています。

実際の施工と材料

Q11.容量アップすると重くなりませんか?

初めて使う方は重さを気にされるかもしれません。ただ、慣れてくるとフラットボックスの重さは逆に作業に利用できるものになります。

熟練した方ほど「重さは気にならない」という感覚になります。

また価格的にも決して安いツールではないので、買い替えが起きないよう最初からMAXスペックのものを提供したいという考え方です。

Q12.専用パテは必要ですか?

基本的には「パテ」と名の付くものであれば打てるように設計しています。現場では材料指定があることも多いので、それに対応できることが前提になります。

Q13.洗浄性について

弊社のフラットボックスはアルミ削り出しにこだわっています。アルミはプライマーを塗らない限りパテが密着しにくいので、洗浄性が非常に高いのが特徴です。

Q14.幅広パテ処理はどうしますか?

例えば65cm幅など広いパテ処理が必要な場合は、ジョイントの両サイドを先に打って、乾燥後に真ん中を1本打つ方法になります。

工程としては
横目地 → 乾燥 → 縦目地
の順に進めると効率的です。

開発の裏側

Q15.日本仕様で一番苦労したことは?

日本人の細やかな仕上がり感覚をカナダのエンジニアに伝えることですね。

改良点自体は職人さんの声そのものなので迷いはありませんでしたが、その背景にある日本人の感覚を理解してもらうのが一番大変でした。

今後の展開

Q16.今後の開発方向は?

パテ作業時間が従来の1/5になったというデータもあります。作業時間が短縮されれば、その分他の作業に時間を使うことができる。

現場の人材不足を少しでも緩和できればと考えています。

Q17.女性向けモデルの予定は?

第一弾として「ネイルスポッター」(ビス頭処理ツール)の女性向けモデルを予定しています。握力が少なくても扱えるようにバネの重さなどを調整したモデルになります。